知識の泉

トレーニング


山行で大切な力は主に持久力、筋肉、バランス力といわれています。
では、どのようにそれらの力を身につければよいのでしょうか。
ワンゲルが行っているトレーニングと照らし合わせていくことにしましょう。

★持久力
 これは山でバテないための力です。この力がないと、すぐに息が上がってしまいます。日ごろのトレーニングでしっかり鍛えておく必要があるでしょう。そこで、私たちはラントレ(ランニングトレーニング)を行っていますが、これは心拍数を程よく上げた状態を長時間保ち持久力を高めようとするものです。
 では、程よくあげた心拍数とはおよそいくらでしょうか。
 運動能力の限界を示す最高心拍数は、220−年齢 と言われています。トレーニングはその60〜75%の範囲で行うとよいので、程よい心拍数とは、われわれ大学生の場合、120〜150ということになります(有酸素運動)。この範囲の心拍数は、わりと楽だなと感じる心拍数と、少しきついなと感じる心拍数なので、あまり楽すぎず、そしてきつすぎないトレーニングになるように心がけましょう。

★筋力
 ここでは、歩荷(ボッカ)で重い荷物を背負えたり、急な登りや下りでも対処できる筋肉とそのトレーニング方法を紹介します。

>>大腿四頭筋が基本
 登山という”運動”において、もっとも活躍する筋肉は、太もも前面の大腿四頭筋です。人体の中でも非常に大きな筋肉で、ひざを伸ばすときにもっとも力を発揮します。登山時でいえば、登りでグイッと体を持ち上げるときに力を発揮しますが、下りでも、大腿四頭筋が伸ばされながら体を支えることになるので、筋肉に対する負担はとても大きくなります。これらの理由によって、登山のための筋力トレーニングといえば、まずこの大腿四頭筋の強化を指すことが多いです。大腿四頭筋は、平地を歩くウォーキングでは鍛えられません。ウォーキングはその距離やスピードによって、持久力のアップやダイエットになりますが、平地を歩くだけでは大腿四頭筋への負担は非常に軽いものです。この筋肉を鍛えるには、山に登ること、階段の上り下り、スクワットなど、ひざを曲げたり伸ばしたりする運動が有効です。

>>忘れちゃいけないハムストリング
 脚力を中心にすえた筋力トレーニングで見落としがちなのが、ハムストリングです。
 ハムストリングとは、太もも後ろ側の筋肉群の総称で、大腿四頭筋とは裏表の関係があります。つまり、大腿四頭筋が縮んで力を発揮しているときハムストリングは伸びて、ハムストリングが縮んで力を発揮しているとき、大腿四頭筋は伸びています。
 このように、2つの筋肉群が交互に伸び縮みを繰り返すことでひざが動いているわけです。
 それゆえ、ハムストリングの力が弱すぎたり、柔軟性に欠けていると、大腿四頭筋の動きにも影響を与え、そのバランスの悪さが肉離れなどの故障の原因になります。トレーニングやストッレチの際は、大腿四頭筋ばかりではなくハムストリングも意識をしておきましょう。

>>とにかく重要なストレッチ
 登山だけでなく、あらゆるスポーツにおいて、体つくりやコンディショニング、けが予防にストレッチは欠かせません。準備運動として登山前、整理運動として登山後に行うだけでなく、日常的にもストレッチを行うように心がけたいものです。
 ストレッチは関節を支える筋肉や腱を伸ばすことによって、その部分の血行を促進させることが最大のポイントです。それによって、筋肉の柔軟性および弾性の向上が期待できます。登山前にストレッチをすれば、筋肉がほぐれて疲れにくくなり、肉離れの予防にも役に立ちます。
 また、継続的にストレッチをすることによって筋肉の柔軟性が増し、関節の可動域が大きくなり(体が柔らかくなり)、捻挫などの予防にもなります。さらに、疲労の回復血行をよくすることで、筋肉中にたまった乳酸などの疲労物質がすばやく排出され、疲れも早く取れるようになり、筋力トレーニング時には、血行の促進が効率のよい筋力アップに結びつくことになります。

★バランス
 よく滑る、よくこけるという人は、平衡感覚を養いましょう。自分がどれくらいの平衡感覚か、閉眼片足立ちで調べることができます。20歳の男性が平均92秒、女性が82秒です。また閉眼片足立ちを行うことでバランス力の向上にもつながります。注意が必要なところは注意深く歩けば、多くの場合大丈夫ですが、日ごろからのバランス力を向上させることも、山行において大切なことです。

山の歩き方


 山での歩き方は、平地の歩き方とは異なります。 歩行は、より安全にかつ継続して歩くことが大前提です。 もし、歩行ができなくなると、死活問題となります。 歩行の状態の良し悪しが、いかに楽しく安全かつ快適に登れるかに集約されると言えるでしょう。 楽しく快適に登れるということは、急がず、あせらず、むやみに休まず、ゆっくりと一歩一歩確実に歩くことが大切です。 意外にもこのような歩行ペースでこそコースタイムに余裕ができ、その分予定以上に距離をかせぐばかりでなく自由時間が増える、ということが少なくありません。

>>歩幅
 体の重心はいつも変わらないよう(体が前後に移動しないように)平地を歩くときよりも小さい歩幅で移動します。前に投げ出したかかとより重心が前にいかないよう歩くことが大切です。また、急な斜面ではより歩幅を小さくし、膝の折り曲げ角度を小さくし滑らかに移動できるよう歩くことが重要です。それが体力の消耗と膝が笑うのを防ぐことにもなります。

>>足の方向
 急な斜面を登るとき、股を少し開き加減にし、歩幅をより少なめにし、少しガニマタ気味に歩くと楽になります。また、下るときは、足を地面と平行に出し膝に過度の衝撃を与えないようにすると、膝を痛める確率が下がります。

>>足の着地
 足は、先端やかかとからではなく、足裏全体で着地するようにします。このとき地面から音が出ないような感じで体重を移動させます(ソフトに着地するということです)。足音が大きく出るような歩きは、靴ずれや膝の故障にもつながります。

>>体の移動
体の重心は前後に移動しないよう、平地を歩くときよりも小さい歩幅で体を移動します。このとき体は左右に揺れたり上下に移動しないよう歩くことが大切です。無駄な体の動きは、エネルギーのロスにつながるばかりではなく、体力の消耗を招き長時間の歩行に支障をきたします。手はあまり振らず、腕組して歩く感じが体力の消耗を防止し、省エネルギーになり効率が良くなるでしょう。

衛生の知識


■日射病
症状> 頭痛、目まい、吐き気、疲労感、顔面が紅潮する。発汗が止まり、皮膚はカサカサに乾燥し、脈拍が強く早くなる。
対処法> 病人を風通しのよい涼しいところに移し、上半身をやや高めにして寝かせる。タオルやうちわで扇いだりして体温を下げる処置をとる。そして意識があれば、冷たい水か薄い食塩水、またはスポーツドリンクを飲ませる。

■熱疲労
症状> 頭痛、目まい、脱力感などの症状。顔面蒼白。肌は汗でべとべとして冷たく感じる。
対処法> 病人を風通しの涼しいところに移す。そして汗でぬれた衣服を乾いたものに着替えさせ、シュラフなどで全身を保温し、足をやや高めに寝かせる。薄い食塩水、またはスポーツドリンクを飲ませると効果的。


■虫に刺されたしまったら


◎スズメバチ

 蜂の毒に対する感受性は個人差が大きく、万一アレルギー性を持っていた場合、アナフィラキシーショックと呼ばれるアレルギー性ショック症状が発生する危険があり、重症の場合嘔吐,頭痛,めまいなどがみられさらには血圧低下や意識の混濁、まれには死に至ることがあります。不幸にして刺された場合は、万一巣が近くにある場合はたいへん危険なので速やかに巣から遠ざかります。この場合もできればなるべく低い姿勢で静かに縦方向に離れます。 おおむね10〜50m離れることができれば安全です。
 刺されたときは傷口を清潔な水でよく洗い流し、身体に回る毒成分の量を減らすため、できれば速やかに毒液をポイズンリムーバーで吸い出します。患部の腫れや痛みには冷湿布をし、虫刺されの薬(抗ヒスタミン剤ステロイド軟膏)を塗ります。 この際、俗信として根強い「アンモニア水で中和する」は、全くの誤りです。また、毒液を口で吸いだすこともしてはいけません。身体各所或いは全身の蕁麻疹、だるさ、息苦しさなどのアレルギー性症状がある時は、迅速に医療機関で手当を受けるべきです。



◎マダニ

 すぐに取り除く事! 咬まれて24時間以内なら、人や動物に病原体が感染している可能性は低い。 早期発見・早期駆除が大切。素手で触らない事! マダニを取り除く時はピンセットやティッシュペーパーを使うか、手袋をしてマダニやその排泄物に直接触れないようにする。 取り除く時は慎重に!マダニを取り除く際、ダニの頭部が皮膚に残らない様に気をつける事。 左右に揺すって注意深く引き抜くか、アルコールを染み込ませた綿花を押し付けてマヒさせて取り除く。無理だと思ったら、医師や獣医師に取ってもらう事。


■毒蛇にかまれたら

日本で危険な毒蛇は、九州から北海道まで分布する「マムシ」と「ヤマカガシ」、奄美大島・沖縄に分布する「ハブ」です。九州、北海道、奄美大島、沖縄は私たちもよく行く地域なので絶対に知っておきたい項目です。毒ヘビは上顎(うわあご)に毒牙があります。得体の知れない蛇に咬まれたとき、それが毒蛇の恐れがあるときは、むやみに切ったり縛ったりせず、次のような応急手当をして下さい。

患者を休ませる。

患者を安心させる。

咬まれた局部を動かさないようにする。

好ましくない全身的な症状に気をつける。

できるだけ早く患者を医療施設へ連れて行く。

毒ヘビかどうかの判断

 

(無毒)

(有毒)

 

 

アオダイショウ

ヤマカガシ  マムシ  ハブ

 

 上図のように、傷口の歯の跡から、毒ヘビかどうかのおよその判断ができます。
点線部分が歯の跡、黒丸部分が毒牙です。

 ■テーピングの方法

図をクリックで拡大します。

>>足関節のテーピング・・・・予防(内反捻挫予防)


>>足関節のテーピング・・・・応急処置(内反捻挫)


>>膝関節のテーピング・・・・(内側側副靭帯損傷予防)


>>肉離れのテーピング・・・・(大腿部前面部)


山の食事


山の食事は、歩行食と休憩時の食事(宿泊地での食事を含む)と非常食に分かれます。

歩行食
 文字通り歩行中の食事で、歩きながらまたは、少し立ち止まっての捕食です。捕食の目的は、歩行中のエネルギーの補給です。「お腹が空いて歩けなかった」というのは、空腹で歩けないのではなく、歩行に必要なエネルギーを十分、補給できなかったことによります。数時間にもおよぶ登山や縦走登山など効果的なエネルギー補給について理解しておくと、このような失敗も少なくなるでしょう。捕食摂取後、速くエネルギー源になる炭水化物(ブドウ糖など)などを摂取することが大切です。

 「炭水化物」とは
運動に必要なエネルギーの素となる栄養素が炭水化物です。
※運動中のエネルギーとして
 (1)血糖(血液中に取り込まれた炭水化物)
 (2)グリコーゲン(炭水化物がブドウ糖に変換し、筋肉中に蓄えられたもの)
 (3)脂肪(血液中の遊離脂肪酸。炭水化物に変換される)
炭水化物は、その分子構造によっていくつかの種類に分類され、消化・吸収の速度が違います。

「炭水化物の種類」
 (1)単糖類 ブドウ糖(グルコース) 果糖(フルクトース) ガラクトースなど
 (2)二糖類 ショ糖(砂糖) 麦芽糖 乳糖(ラクトース)など
 (3)小糖類 デキストロン オリゴ糖など
 (4)多糖類 複合炭水化物 ご飯 パン うどん パスタなど
※消化・吸収の特徴
●単糖類・二糖類
消化・吸収が早く、血糖に変換される。
血糖値は急激に上昇し、即効性のエネルギー源となる。しかし、30〜40分程度で血糖値は下がってしまう。
●多糖類
消化・吸収するまで2時間程度必要ですが、一度、血糖値が上昇すると下がりにくい。
 いわゆる『糖分』というのは、これらの特性をひとまとめにしたものですが、運動のエネルギー源として考える場合には、このような特徴を考慮して補給のタイミングを見計らうことが重要です。

「効果的な摂取」のしかた
●単糖類・二糖類
 胃に負担をかけることなく、即効性のエネルギー補給が必要な場合は、チョコレートやバナナ・オレンジジュース等の果糖の摂取が有効です。ただし、チョコレートは喉の渇きを誘発す ることもありますので向き不向きがあります。前述したような単糖類の特徴を考えると、歩行前から摂取し続けるよりも、ラストスパートに備えたエネルギー補給と考えた方がいいかも知れません。また、アメなども口の中で長持ちして良いとされ、利用しているランナーも多いようですが、歩行中ですと喉につまらせる可能性もありますので注意が必要です。また、現在では、ブドウ糖のタブレットやゼリー飲料(ウィダーインゼリー)等も市販されており、非常に効果的であると考えられています。
●多糖類
 ご飯やパン、うどん、パスタ等の多糖類の摂取は、歩行中のエネルギー補給というよりも、歩行前に備えた食事として、出発2〜3時間程度前にしっかり取っておく方法をとるのが 良いでしょう。出発前の食事の時間については、消化・吸収の所要時間はもちろんのこと、満腹・空腹感の問題等、個人差がありますので、何度か試してみて自分のパターンを見つけることが必要です。歩行時間が非常に長い場合には歩行中であっても多糖類の摂取も考えていかなければならない場合もあるかも知れません。エネルギーの補給という面では、これは非常に重要なことですが、運動中の食物の消化というのが難しく、腹痛の原因になることもあるますので、このことも考慮しなければなりません。いずれにせよ、経験の中で一番良い方法を模索していくしかありませんね。

休憩時の食事
 昼食や山小屋(目的地)での夕食などのことです。エネルギー補給はもちろんのこと、栄養摂取や気分転換の意味もあります。山での食事は大切な楽しみのひとつです。もちろん朝食、昼食、夕食では、必然的に食事の内容が異なります。朝食の場合、多糖類を摂取しておきましょう。(ご飯やパン、うどん、パスタ等の多糖類の摂取は、歩行中のエネルギー補給というよりも、歩行前に備えた食事として、出発2〜3時間程度前にしっかり取っておく方法をとるのが 良いでしょう。)昼食の場合、朝食と同じく多糖類をとることえおおすすめします。(ただし、満腹になるほどの食事は、返ってマイナスです。腹痛、嘔吐を招くおそれがあります。)夕食では、翌日のエネルギー源として多めの炭水化物を摂ります。つまり翌日のエネルギーとして体内にためておくためです。

非常食
 不慮の事態に備えた非常時の食事です。本来なら、いろいろなものがあれば望ましいと思いますが、荷物の関係で、カロリーの高いコンパクトなものを忍ばせておくのがよいでしょう。我々は全員にカロリーメイトの携帯を義務付けています。